相続した不動産に根抵当権(ねていとうけん)が設定されていることがあります。
抵当権に比べると馴染みの薄い根抵当権ですが、相続するとどのような影響があるのでしょうか。
今回は不動産の根抵当権とはなにか、そのまま相続する方法や根抵当権を抹消する方法などを解説します。
不動産の根抵当権とは?相続するなら急いだほうが良い理由
根抵当権とは不動産に設定される担保権の一種で、一定の範囲内の債権を担保するものです。
根抵当権を設定すると、最初に定めた極度額の範囲内で何度も借り入れと返済を繰り返すことができます。
その性質から、事業資金など必要なタイミングで融資を受けたい企業や経営者などによく利用されています。
抵当権との違い
住宅ローンを利用して不動産を購入したことがある方は、抵当権という言葉を耳にしたことがあるでしょう。
抵当権も不動産に設定される担保権の一種ですが、抵当権と根抵当権では債権の範囲や設定の有無などが異なります。
抵当権とは、住宅ローンなどの債務を担保するために、金融機関が債務者の不動産に設定する権利です。
債務者が返済できなくなった場合、金融機関は抵当権を実行して不動産を競売にかけ、その代金から債権を回収することができます。
抵当権は借入額が決まっており、追加で融資を受けることはできません。
債務を返済すると抵当権の権利が消滅し、新たな融資を受けたいときは再度登記が必要となります。
一方で根抵当権は、定められた極度額内であれば複数回に分けて借り入れが可能であり、返済が完了しても根抵当権は残ります。
また根抵当権は特定の債権について設定するわけではないため、返済額や返済日が決まっていないのも特徴のひとつです。
抵当権は住宅ローンなど1件だけの債権を担保するときに使用するものであり、返済額や返済日が明確に定められています。
根抵当権付き不動産の相続を急いだほうが良い理由
根抵当権付きの不動産を相続する場合は、相続開始から6か月以内に相続人を定める合意の登記を済ませなければなりません。
この期間を過ぎすると根抵当権の元本が確定し、通常の抵当権と同じ性質の権利となってしまいます。
通常の抵当権と同じ扱いになるということは、繰り返し借り入れができなくなるということです。
事業を継承するために根抵当権付きの不動産を相続したい場合は、早めに手続きの準備を始めることが大切です。
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根抵当権付きの不動産をそのまま相続する方法とは?
根抵当権がついたまま不動産を相続したい場合は、通常とは異なる手続きが必要です。
ここからは、今抵当権付きの不動産をそのまま相続する方法を解説します。
不動産の所有者と債務者が同じ場合
不動産の所有者と債務者が同じ場合は、相続登記と指定債務者登記をおこなう必要があります。
まずは法務局で相続登記をおこない、不動産の所有者名義を被相続人から相続人へ変更します。
相続登記が済んだら指定債務者登記をおこない、債務者の名義を相続人に変更する流れです。
所有者と債務者が異なる場合
根抵当権の債務者が必ずしも不動産の所有者であるとは限りません。
所有者と債務者が異なる場合、根抵当権の相続では不動産の名義変更は不要で、指定債務者登記のみおこないます。
はじめに相続人と根抵当権者(金融機関)が話し合って指定債務者を決定し、不動産の所有者と根抵当権者で指定債務者登記をおこなう流れです。
不動産の相続手続きの流れ
根抵当権を相続すると決めたら、債権者と連絡を取り、相続に必要な書類を準備してもらいましょう。
相続人が決まっていない場合は、相続人間で遺産の分割方法を決める「遺産分割協議」をおこなう必要があります。
根抵当権をそのまま利用したい場合は、事業を継承する方が不動産を相続するのが一般的です。
相続人が決まったら、法務局で所有権移転登記や債務者変更登記、指定債務者の合意の登記をおこないます。
なお、被相続人の借金は新しい指定債務者がすべてを負うわけではなく、遺産分割協議で定めたとおりに相続人全員で分割します。
ただし相続後に根抵当権者から融資を受けた場合は、新しい債務者が負担することになるためご注意ください。
また、指定債務者以外に根抵当権の債務を引き受ける相続人がいる場合は、債権の範囲の変更登記もおこなう必要があります。
債権の範囲の変更登記とは、その名のとおり根抵当権の債権の範囲を変更する登記です。
債権者と債務者の間で新しい契約が成立したことを意味し、その変更を第三者に対抗するためにおこないます。
債権の範囲の変更登記は、必ず債務者の変更登記を先におこなった後に申請してください。
登記順序を守らないと、債務者が確定しないまま債権の範囲変更をすることになり、登記手続き上の整合性が取れなくなってしまいます。
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相続した不動産の根抵当権を抹消するには?
事業を承継しない方や根抵当権を利用する予定がない場合、売却を検討される方もいらっしゃるでしょう。
不動産は所有しているだけでお金がかかるため、活用予定がなければ早めに手放すことをおすすめします。
売却時には根抵当権の抹消登記の手続きが必要となるため、以下のポイントを確認しておきましょう。
債務が残っているかどうか
債務が残っていなければ、根抵当権はいつでも抹消することが可能です。
抹消登記をおこなう場合は、まず根抵当権者に連絡を取り、抹消登記に必要な書類を用意してもらいましょう。
被相続人以外の第三者が完済している場合は、所有権移転登記を済ませてから根抵当権の抹消登記をおこないます。
相続時に債務が残っている場合は、原則として債務を完済してからでないと根抵当権を抹消できません。
不動産の売却代金を返済に充てて根抵当権を抹消するのが基本ですが、売却代金だけでは債務を完済できないケースもあるでしょう。
不動産を売却しても債務が残ることが明確な場合は、被相続人の財産をすべて放棄する「相続放棄」を検討するのもひとつの手です。
ただし、相続放棄をするとその他の財産もすべて取得できなくなってしまうため、よく考えたうえで判断することが大切です。
また相続放棄は「相続開始を知った日から3か月以内」におこなう必要があるので、すると決めたら早めに準備に取りかかりましょう。
元本の確定
根抵当権は具体的な貸付金額を指定せず、将来発生する可能性のある債務を担保するものです。
相続開始後6か月以内に根抵当権者との間で元本の確定に合意しなければ、相続開始時点で元本は確定されたものと見なされます。
元本確定以降に発生する債権は担保されなくなり、元本確定の時点で存在した債権を返済すると、根抵当権は消滅します。
根抵当権抹消登記の必要書類
根抵当権抹消登記をおこなう際には、以下の書類が必要です。
●登記申請書
●所有者の本人確認書類(法人の場合は会社謄本など)
登記申請書は法務局で直接取得できるほか、法務局のホームページからダウンロードすることも可能です。
所有者の本人確認書類にはマイナンバーカードや運転免許証、法人の場合は会社謄本などが該当します。
また債権者から合意を得たら、以下の書類も準備してもらわなければなりません。
●弁済証書などの登記原因証明情報
●根抵当権設定契約証書
●法人の場合は資格証明書または登記事項証明書
根抵当権の抹消登記では専門的な知識を必要とするため、専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。
手続きを司法書士に依頼する場合は委任状が必要ですが、基本的には司法書士が用意してくれます。
依頼料は必要な書類の量や地域、事務所によって異なるので、見積もりをとってから検討すると良いでしょう。
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まとめ
不動産の根抵当権とは、極度額の範囲内であれば、繰り返し借り入れや返済ができるという担保権です。
根抵当権付きの不動産をそのまま相続する際は、相続開始から6か月以内に相続人を定める合意の登記をおこなわなければなりません。
根抵当権を抹消して不動産を売却したい場合は、債務完済後に根抵当権の抹消登記をおこないましょう。