相続が発生するにあたり注意したいのが、相続対象となる不動産が「負動産」と呼ばれる土地や建物のケースです。
しかし負動産とはどのような土地や建物のことを指すのか、もし相続したらどうやって処分すれば良いのか、わからないことも多いでしょう。
今回は負動産の概要とおすすめの処分方法、相続放棄の手続きなどを解説します。
負動産とは
負動産とは、価値が一切ない不動産のことです。
基本的に不動産は安定的な資産価値があり、所有するだけでもプラスの面が大きいとされてきました。
ところが不動産のなかには所有権を得たとしても利益に結び付かず、資産価値がゼロである建物や土地が少なからず存在します。
このように資産価値を見出せず、収入源としても活用できない不動産を負動産と呼ぶのです。
もし負動産を所有すると金銭面などさまざまなリスクが生じるため、負動産を相続する可能性がある方は事前に確認しておくことをおすすめします。
負動産を相続するリスク
負動産を相続するリスクのひとつ目は、固定資産税の負担です。
たとえ資産価値がない負動産だとしても、不動産である限りは所有している方に固定資産税の納付義務が生じます。
固定資産税は建物や土地の評価額に基づいて決められるため、地域や安い金額の負担で済む可能性はありますが、毎年支払うことを考えると決して安い負担とは言えません。
建物がある土地であれば税負担の軽減措置を受けられることがある反面、建物がない土地を相続すると軽減措置の対象外となり、納める固定資産税額も高くなります。
負動産を相続するリスクの2つ目は、損害賠償責任を負うおそれがある点です。
相続した建物が原因となり被害が発生した場合、その不動産を所有している方は損害賠償責任に問われる可能性があります。
たとえば建物の倒壊や強風により飛散した外壁などで、周囲を歩行していた方にケガを負わせてしまったケースなどが挙げられます。
相続した土地で崖崩れが発生し、損害を与えた場合も損害賠償責任に問われるでしょう。
また管理の手間も負動産を相続するリスクに該当します。
とくに自宅から離れていると移動だけでも時間がかかり、煩わしさを感じることもあるでしょう。
しかし土地の管理を怠ると雑草が伸びてしまい、隣地に住む方などから苦情がくる可能性があるため、所有する限りは定期的な手入れが欠かせません。
自治体によっては雑草のお手入れを条例で定めているケースもあり、負動産を相続する場合は注意が必要なのです。
代表的な負動産とは
代表的な負動産としては、主に以下の3種類が挙げられます。
●両親が遺した空き家・農地
●リゾートマンション・別荘
●空室が多くを占める賃貸物件
相続する不動産が空き家の場合、管理が行き届かないと倒壊による損害賠償責任のリスクはもちろん、不法侵入や放火など犯罪の発生が懸念されます。
思わぬトラブルに巻き込まれるおそれがあるため、負動産の取り扱いには十分注意しなければなりません。
相続した負動産を処分するおすすめの方法
相続した負動産を処分するなら売却か空き家バンク、寄附の3種類から方法を選ぶことをおすすめします。
売却による処分
負動産を処分するにあたり、もっとも簡単な方法が売却です。
売却は不動産会社に依頼して建物や土地の買主を見つける「仲介」と、不動産会社に直接売る「買取」の2パターンです。
買取を利用して不動産会社に売却すると短期間で手放せる一方、売却額が安くなる、あるいは0円に近い金額での買取を要求されることがあります。
仲介による売却なら、不動産会社が買主探しに向けて売却活動をおこなうため、買主の発見や売買契約の締結も可能です。
費用負担なしで売却するならリフォームなし、成約率を高めたい場合はリフォーム後の売却がおすすめです。
空き家バンクを活用した処分
空き家バンクとは、移住を希望する方と空き家の売主や貸主の間を取り持つマッチングサービスの一種です。
運営元は移住促進を期待する自治体で、空き家の登録時には使用料も登録料もかかりません。
自治体によっては空き家の改修工事に対して補助金制度を実施しているため、経年劣化などによる損傷を修繕してから登録できれば買主や借主との早期マッチングも期待できるでしょう。
2017年時点で空き家バンクを実施している自治体は6割以上を占めており、なおかつ約2割の自治体では実施計画を立てているとの調査結果が出ています。
なお空き家バンクを実施していない、あるいは制度自体は実施していても利用条件が設けられているなど空き家バンクの利用可否は自治体ごとに異なります。
空き家バンクを利用して処分したい方には、負動産がある地域を管轄する自治体への相談がおすすめです。
寄附による処分
売却や空き家バンクで負動産を処分できないケースでは寄附する方法も検討すると良いでしょう。
負動産の寄附先は主に自治体か個人、もしくは法人の3パターンです。
自治体への寄附では担当窓口で相談したあとに担当者による調査がおこなわれ、審査を通過した場合は必要書類を提出すれば手続きできます。
個人への寄附は原則として隣地を所有する方が対象となりますが、このケースは贈与とみなされるため、負動産を受け取った方は贈与税の納付が必要です。
法人に寄附する場合は所有権移転登記が必要となり、司法書士への依頼料を含めると約10万~30万円の費用が発生する可能性があることを覚えておきましょう。
負動産の所有を相続放棄で回避する方法
相続により負動産を所有すること自体を避けたいなら、相続放棄を選択することをおすすめします。
相続放棄であれば負動産を取得することなく所有権を手放せるため、複数の選択肢から処分方法を決める必要がありません。
固定資産税を納める義務も発生せず、毎年一定額の税金を負担せずに済みます。
ただし相続放棄の対象にはマイナスの財産だけでなくプラスの財産も含まれます。
仮に相続対象の預貯金や現金が高額だとしても、相続放棄を選択するとすべての相続権を手放すことになるのです。
負動産だけを相続放棄して現金は受け取るなどの方法は選択できません。
相続放棄を選択する場合に必要な手続き
相続放棄は、自分に対して相続が開始されたことを認識したタイミングから3か月以内に、家庭裁判所での手続きが必要です。
たとえば被相続人が亡くなった事実を死亡日から1年後に認識したとしても、相続放棄手続きができる期間は認識した日から3か月以内です。
手続き期間の3か月が過ぎると原則として相続放棄は選べず、被相続人の財産を丸ごと相続しなければなりません。
なお相続放棄は相続人一人ひとりの意思が尊重されるため、ほかの相続人が全員相続を選択した場合でも手続きは可能です。
相続放棄手続きに必要な書類
相続放棄手続きを進めるうえで基本的に必要となる書類は以下のとおりです。
●相続放棄申述書
●被相続人の戸籍謄本
●被相続人の住民票もしくは戸籍の附票
●相続放棄手続きをおこなう方の戸籍謄本
相続放棄申述書は家庭裁判所で直接受け取るか、裁判所の公式ホームページでダウンロードして入手できます。
なお戸籍謄本は本籍地を管轄する自治体でしか取得できないため、被相続人が遠方に住んでいる場合など取得に時間がかかりそうなケースでは早めの対応が大切です。
3か月以内に手続きを済ませられるよう、迅速な行動を心がけましょう。
まとめ
負動産とは価値がなく、固定資産税がかかるなど所有するメリットがない不動産のことです。
取得した負動産を処分するには売却か空き家バンクへの登録、寄附による方法で手放す必要があります。
所有すること自体を回避したいなら相続放棄手続きがおすすめです。